ペットボトル水に「値上げ第2波」の懸念——2026年ナフサショックがPET容器に届くまでの連鎖を解説

2026年5月、国内最大のペットボトル・缶メーカーである東洋製缶グループホールディングスが「顧客との価格交渉を開始した」と明らかにしました。引き金は、2026年春から続く中東・ホルムズ海峡の封鎖状態によるナフサ(石油化学の基礎原料)の急騰です。
前回の値上げから8カ月——2025年10月、500mlペットボトル水は約180円から200円前後に値上がりしたばかりです。「また上がるの?」と感じている方も多いはず。この記事では、中東の地政学リスクがどうやってコンビニ棚のペットボトル水にたどり着くのかを、石油化学の連鎖から丁寧に解説します。
ナフサとは何か——PETボトルはここから生まれる
ペットボトルはPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂でできています。このPET樹脂の出発原料が「ナフサ(粗製ガソリン)」です。原油を精製して得られるナフサを高温で分解(スチームクラッキング)すると、エチレンとプロピレンが生まれます。エチレンはさらに化学反応を経てエチレングリコールになり、テレフタル酸と重合してPET樹脂が完成。これを溶かして成型したものがペットボトルです。
ナフサ → エチレン → エチレングリコール → PET樹脂 → ペットボトル
一見シンプルなこの連鎖を支えているのが、中東からの安定したナフサ供給です。日本はナフサの約70〜80%を中東から輸入しており、その多くがホルムズ海峡を通過するタンカーで運ばれてきます。
ペットボトル1本に必要なPET樹脂の量
| 容量 | PET樹脂使用量 | 1Lあたり換算 |
|---|---|---|
| 500ml | 約19〜22g | 約40〜44g/L |
| 1L | 約28〜32g | 約28〜32g/L |
| 2L | 約42〜46g | 約21〜23g/L |
2Lボトルは同じ容量を運ぶのに必要なPET量が500mlの約半分。この差がナフサ価格上昇時に価格転嫁の大小に影響します。
2026年春のホルムズ海峡封鎖——何が起きたのか

2026年2〜3月にかけて、中東の地政学的緊張によりホルムズ海峡が事実上の封鎖状態となりました。ホルムズ海峡は幅わずか33〜60kmの細い水路で、中東産油国が輸出する石油・石油化学製品の約20%——日量1,900万バレル相当——がここを通過します。日本にとっては原油だけでなく、プラスチック原料のナフサ供給も直撃します。
価格への影響は即座でした。 2026年3月、ナフサ価格はトン当たり600〜700ドル前後から約1,100ドルへと2週間で約60%急騰。石油化学各社はエチレン生産設備の稼働を抑制せざるを得なくなり、2026年4月のエチレン生産設備稼働率は67.3%(速報値)と、1996年以降の統計で過去最低を記録しました。
この稼働率低下は「ナフサが入ってこないから工場を動かせない」という原料不足の典型的な帰結です。エチレンが減産されれば、その下流のPET樹脂も減産、ペットボトルの製造コストが上昇します。
東洋製缶の「値上げ交渉開始」が意味すること
東洋製缶グループホールディングスは、日本のペットボトルと飲料缶の製造で首位クラスの大手メーカーです。主要ブランドのボトル供給に深く関わる同社が、2026年5月の決算説明会で顧客(飲料メーカー)への価格転嫁交渉を開始したと発表しました。同社は中東情勢で27年3月期に135億円の減益を見込むとも明かしています。
「交渉開始」という言葉が重要です。飲料業界では価格改定が実現するまでに通常、次のプロセスを経ます。
- 容器メーカーが飲料メーカーへ価格改定を要求(2026年5月〜)
- 飲料メーカーが原価を計算・内部承認
- 小売業者へ希望小売価格の改定を打診
- 小売業者との交渉・棚割り調整
- 実際の店頭価格反映(早くて2026年秋〜遅くとも2027年春)
消費者が値上げを体感するまでには、まだ数カ月の猶予があります。
前回値上げとの違い——構造が変わった
2025年10月の値上げは、主に円安・海上輸送費の高騰・人件費上昇の複合要因によるコスト増でした。今回はナフサという一次原料の物理的な供給不足という点で性質が異なります。
| 比較項目 | 2025年10月の値上げ | 2026年以降の懸念 |
|---|---|---|
| 主因 | 円安・物流費・包材コスト | ナフサ供給不足 |
| 性質 | コスト増加 | 原料の物理的不足 |
| 影響範囲 | 飲料全般 | 飲料・食品容器・日用品全般 |
| 見通し | 比較的予測しやすい | 地政学リスクで不透明 |
ナフサ不足は「水だけ」の問題ではありません。食品包装のプラスチックフィルム、洗剤のボトル、化粧品容器まで、石油化学由来の資材すべてに影響が及びます。ペットボトル水の値上げは、その「最も日常で目に見えやすい指標」のひとつです。
読者が今できること——データに基づく生活防衛

値上げ圧力が高まる中、賢い選択のポイントを整理します。
1. 2Lボトルは「PET効率」が高い
上の表が示すとおり、同じ量の水を飲む場合、2Lボトルは500mlボトルの約半分のPET樹脂しか使いません。PET樹脂のコストが上昇するほど、容量あたりの価格差は大型ボトルに有利に働きます。日常飲みには2Lボトルのまとめ買いがコスパ上の選択肢になります。
2. ラベルレス商品に注目が集まる理由
ラベルもプラスチック(PETまたはPP)製です。ラベルレス商品はラベル分(約1〜2g)の樹脂を節約でき、各社がECでラベルレスを拡充しているのは環境目的と同時に、原材料費削減という経営面の理由も重なっています。
3. 備蓄水の「仕込みどき」を考える
ナフサ価格の本格的な落ち着きは2026年末〜2027年前半と予測されています。値上げが秋以降に小売価格へ反映される前の今夏が、現行価格で購入できる最後のタイミングになる可能性があります。一般に推奨される備蓄量は1人3日分(1日3L)= 最低9L。2Lボトル5本程度を備蓄しておくことは、合理的な生活防衛策です。
代表的な日本の天然水として、手に取りやすい定番をMIZUNOMOのデータで確認できます。
コスパを重視したい場合は、2026年6月から登場した業界最安水準のPBも選択肢です。
まとめ——地政学リスクと水の値段はつながっている
「なぜペットボトル水がまた高くなるのか」——その答えは日本から3万km以上離れたホルムズ海峡を通る石油タンカーにあります。ナフサ→エチレン→PET樹脂→ペットボトルという連鎖は目に見えませんが、2026年の中東情勢は確実に私たちの水の値段を動かし始めています。
東洋製缶の値上げ交渉が飲料メーカーに通ったとき、その影響がコンビニの棚に届くまでにはまだ数カ月ある見通しです。その間に選択肢の広さをデータで確認しておくことが、賢い消費行動の第一歩になります。
MIZUNOMOでは70種以上のペットボトル水の硬度・pH・ミネラル成分と価格データを掲載しています。値上げ局面だからこそ、「自分に本当に必要なミネラルを、最もコスパよく摂取できる1本」を科学的な視点から選んでみてください。
参考情報
監修・運営: 水野亮人(みずの りょうと)
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