職場の熱中症対策「罰則付き義務化」から1年——2026年猛暑で企業のペットボトル水需要が急増している理由

2025年6月1日、改正労働安全衛生規則が施行され、職場における熱中症対策が初めて罰則付きの義務となりました。それから1年。気象庁が日本付近の高温を予報する2026年の夏に、企業の「水の調達」はかつてなかった規模で変わりつつあります。
なお2026年はエルニーニョ現象が発生しているとみられていますが、エルニーニョは日本に猛暑をもたらす要因ではありません。気象庁の統計では、エルニーニョ発生時の日本の夏はむしろ気温が低くなる傾向があります。それでも高温が予報されているのは、エルニーニョを含む海洋・大気の状態を総合した結果であり、「エルニーニョだから猛暑」という因果ではない点に注意が必要です。
ペットボトル水市場全体の販売金額が過去最高の5,057億円(2025年)を記録した背景には、法人需要の急増という構造変化があります。この記事では、義務化の内容をおさらいしつつ、企業が今どのような基準でペットボトル水を選んでいるのかを科学的に解説します。
「改正労働安全衛生規則」何が義務になったのか
2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則では、次の両条件を満たす作業に従事する労働者がいる事業者に対して、具体的な措置が義務付けられました。
対象となる環境条件
- 暑さ指数(WBGT)が28℃以上、または気温が31℃以上
- 1回につき連続1時間を超える作業、または1日合計4時間を超える作業
事業者に義務付けられた措置
この改正が義務化したのは、次の2点です。ねらいは熱中症の早期発見と重篤化の防止であり、条文の主眼は「見つけたらすぐ動ける体制を作っておくこと」にあります。
- 報告体制の整備: 「熱中症の自覚症状がある作業者」や「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」が報告するための体制(連絡先・担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に周知すること
- 症状悪化を防ぐ措置の内容と実施手順の作成・周知: 作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた医師の診察・処置、緊急連絡網や搬送先などをあらかじめ定め、関係作業者に周知すること
違反した場合の罰則は「6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」。行政指導で終わっていた従来とは明確に異なり、経営リスクとなったことで、企業の対応速度が一気に上がりました。
誤解されやすい点——「水の備え付け」はこの改正の義務ではない
報道や解説記事では「飲料水の確保が義務化された」「WBGT計の設置が義務になった」と説明されることがありますが、いずれも2025年6月施行の改正で義務化された内容ではありません。この改正の義務は上記の2点に絞られています。
ただし、これは「水を用意しなくてよい」という意味ではありません。安衛則には従来から第617条(休憩設備)や第627条(飲料水等の供給)といった規定があり、事業者が飲用水を供給すべきことは以前から定められています。また熱中症の発症自体が労働災害となるため、予防に取り組む実務上の必要性は変わりません。
つまり2025年の改正は、予防の義務を新設したのではなく、「起きたときに重篤化させない体制」を罰則付きで求めたものです。企業の水の購買が動いたのは、義務そのものというより、罰則化によって熱中症対策が経営リスクとして再認識されたことの波及と見るのが実態に近いでしょう。
義務化1年で「水の購買」がどう変わったか

法人需要が宅配水・ペットボトル双方で急増
業界団体の調査によると、2025年の宅配水(ウォーターサーバー)市場規模は前年比で拡大し約1,980億円に達しました。成長を牽引した主因のひとつが、義務化を受けた法人の新規導入です。
一方、ペットボトル水でも「法人向け箱買い」が急増。建設・製造業では従来はスポーツドリンクを中心に箱買いしていた企業が、熱中症対策として天然水を追加購入するケースが増えています。「スポーツドリンクは糖分が多く、8時間以上の連続供給には向かない。天然水と塩飴の組み合わせの方がコスパが高い」という判断が広まりました。
なぜ天然水が選ばれるのか——コストと成分の両面から
1Lあたりのコスト比較(目安):
- 国産ナチュラルミネラルウォーター(2L×9本): 約30〜45円/L
- 市販スポーツドリンク(500ml×24本): 約80〜120円/L
- 経口補水液: 約150〜200円/L
長時間・大量供給が求められる職場では、天然水+塩分(塩飴・梅干し)の組み合わせがコスト面で圧倒的に有利です。さらに、熱中症の初期予防(のどが渇く前の補給)には甘みのない天然水の方が飲みやすく、摂取量を増やせるという現場の声も後押ししています。
職場環境別「ペットボトル水の選び方」科学
オフィス・軽作業(WBGT28℃未満の室内)
空調が効いたオフィスや軽い立ち仕事では、硬度30〜50mg/Lの軟水天然水が最適です。軟水は口当たりが柔らかく継続的に飲みやすいため、1日1.5〜2Lの摂取目標を達成しやすくなります。カルシウム・マグネシウムの絶対量は少ないですが、食事からの摂取で補えます。
屋外重労働・建設現場(WBGT28℃以上)
汗を大量にかく環境では、水だけでなく電解質(ナトリウム・マグネシウム)の補給が必須です。1時間に1L近い汗をかく場合、失われるナトリウムは約1g。天然水では補いきれないため、塩分(塩飴・食塩水)との併用が原則になります。
なお「マグネシウムの多い水はこむら返りに効く」という説明を見かけることがありますが、これを裏づける根拠は現時点で確立していません。コクラン・レビューは高齢者の筋けいれんに対するマグネシウム補給の有効性を支持しない結論を示しており、運動に伴う筋けいれんについては質の高い試験自体がほとんど存在しません。MIZUNOMOはこの説明を採用せず、含有量の事実のみを掲載します。
高知・室戸の海洋深層水由来で、マグネシウムを比較的多く含む製品として下記があります。
補給タイミングの「30分ルール」を知っておく
厚生労働省の熱中症予防指針では、「のどが渇く前に、こまめに飲む」ことを推奨しています。のどの渇きを感じる時点ですでに体重の約1%(体重60kgなら600ml)の水分が失われており、判断力や作業効率の低下が始まっています。
推奨される補給ペース:
- 作業前: 200〜250mlを摂取
- 作業中: 30分ごとに200〜250ml(または1時間ごとに400〜500ml)
- 休憩時: 塩分を含む食品(塩飴・梅干し)と天然水を同時に摂取
ペットボトル水の「ナトリウム含有量」比較
熱中症対策において、水に含まれるナトリウム量は選択基準の一つになります。ただし、ほとんどの天然水のナトリウム含有量は非常に少なく、水だけで必要な塩分を賄うことはできません。どのくらい少ないのかを、桁で確認しておきます。
なお、市販飲料の栄養成分表示は法令上「100ml当たり」で書かれますが、ここでは水の成分表と比較しやすいよう 1L当たり(mg/L)に統一しています。
| 銘柄タイプ | ナトリウム(mg/L) | 備考 |
|---|---|---|
| 国産天然水(超軟水) | 3〜8 | |
| 国産天然水(軟水) | 5〜15 | |
| 輸入硬水(エビアン) | 6.5 | 公式分析値 |
| スポーツドリンク(ポカリスエット) | 約470 | 食塩相当量 0.12g/100ml から換算 |
| 経口補水液(オーエスワン) | 1,150 | 公式表記 50mEq/L から換算 |
桁が2つ違います。天然水のナトリウム量は経口補水液の約 1/100〜1/200 にすぎません。「水だけで熱中症を防げない」というのは、この差のことです。
汗で失われるナトリウムは、1時間に1L近い発汗があれば約1g(=1,000mg)に達します。天然水を1L飲んで補えるのは、その 1%前後です。塩分は塩飴・梅干し・味噌汁・経口補水液など、水以外から摂る前提で設計する必要があります。

2026年夏に企業が準備すべきこと
義務化から1年が経ち、対応の「質」が問われる局面に入っています。単に冷蔵庫に水を置くだけでなく、WBGTの計測記録、補給ルールの文書化、定期的な教育訓練が義務の実態として求められます。
2026年夏の猛暑予報を踏まえ、次のチェックリストを活用してください。
企業の熱中症対策チェックリスト(水分補給編)
- 清潔な天然水を作業人数分×1日2L以上確保
- 塩飴・食塩水など塩分補給食品も同時確保
- 補給タイミング(30分ルール)を作業指示書に明記
- 高熱環境での作業時はWBGTを計測・記録
- 熱中症症状が出た場合の緊急対応フローを掲示
天然水の選び方や各銘柄の成分データは、MIZUNOMOの水データベースで詳しく比較できます。義務化対応のための「職場向け水選び」にもぜひご活用ください。
参考情報
監修・運営: 水野亮人(みずの りょうと)
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