ボルヴィックの採水地で何が起きているか——フランス当局が採水量削減を段階的に強化、日本での流通構造も変わった

世界50カ国以上で販売されるフランス産ミネラルウォーター「ボルヴィック」。硬度60mg/L・pH7.0のまろやかな軟水と、シリカ(ケイ素)32mg/Lが特徴的な一本だ。しかし、その水源——フランス中部・オーヴェルニュ地方のクレルヴィック泉(Clairvic springs)——では、過剰な採水による深刻な環境変化が続いている。
フランス当局(ピュイ=ド=ドーム県)は2021年から採水量削減を段階的に義務付けており、2025年にも追加規制が計画されていた。日本では2020年末にキリンビバレッジが販売を終了し、現在はアイリスフーズによる並行輸入品として流通が続く。ペットボトル水を「産地ブランド」として選ぶ時代に、水源の持続可能性をどう評価するか——ボルヴィックの事例はその先行課題を鮮明に映し出している。
6層の玄武岩が32mg/Lのシリカを生む——ボルヴィック水源の地質科学
ボルヴィックの採水地は、フランス・ピュイ=ド=ドーム県のヴォルヴィック村(Volvic commune)に位置する。この地域の地下には、約2,000年前に形成されたオーヴェルニュ火山帯の玄武岩・溶岩・凝灰岩・砂層など6層の火山性地質が積み重なっており、雨水や雪解け水はその地層を5年以上かけてゆっくりろ過されながら地下水となる。
この長期にわたる玄武岩ろ過が、ボルヴィック特有のミネラル組成を形成する。
| 成分 | 含有量 |
|---|---|
| 硬度 | 60 mg/L(軟水) |
| pH | 7.0(中性) |
| カルシウム(Ca) | 12 mg/L |
| マグネシウム(Mg) | 8 mg/L |
| ナトリウム(Na) | 12 mg/L |
| カリウム(K) | 6 mg/L |
| シリカ(SiO₂) | 32 mg/L |
硬度60mg/LはWHO分類の軟水域(0〜60mg/L)の上限にあたり、国内の代表的な軟水天然水(サントリー天然水南アルプス:30mg/L、北アルプス:38mg/L)と近い水準のまろやかな口当たりだ。シリカ32mg/Lは、国産天然水の多くが10〜30mg/Lの範囲に分布する中で上位に位置する値となっている。なお、食事摂取基準(2025年版)はシリカに推奨量・目安量・耐容上限量のいずれも設定していないため、「1日○mg必要」「○mg以上は過剰」という基準は現時点では存在しない。
採水量は1965年比で約5.7倍——クレルヴィック泉の流量危機
ダノン社がボルヴィックの瓶詰め工場を建設した1965年当時、クレルヴィック泉からの採水量は毎秒15.6リットルだった。需要拡大とともに採水量は増加し続け、フランス政府が2014年に承認した年間採水上限は280万立方メートル(毎秒約89リットル換算)に達した。
一方で泉の自然流量は低下の一途をたどっている。地質学者ロベール・デュラン氏の調査によると、クレルヴィック泉の平均流量は1927年の毎秒470リットルから現在は約毎秒50リットルまで落ち込んでいる。採水量が自然流量に迫る水準にあり、地域の養魚場「Saint-Genest-l'Enfant」では年間のうち数カ月間にわたって水が全く流れなくなる事態も生じている。
地元環境団体・農家・漁業者からの批判を受け、フランス当局は段階的な採水規制に踏み切った。
| 年 | 規制内容 |
|---|---|
| 2021年 | 年間採水許可量を10%削減 |
| 2023年6月 | 旱魃対策として月間採水量をさらに5%削減 |
| 2025年 | 追加削減が計画(フランス環境当局の公式方針) |

ダノン社は「深部帯水層の採水と地表水不足の間に直接的な因果関係はない」と反論しており、独立した水文学的調査を根拠として示している。ピュイ=ド=ドーム県当局も「水不足の主因は気候変動」と認定しているが、予防原則の観点から規制を継続している。
※ 2025年以降の規制実施状況の最新確認は、フランス環境当局(DREAL Auvergne-Rhône-Alpes)の公式発表を参照してください。
日本では流通構造が変わった——キリン販売終了からアイリスフーズへ
日本でボルヴィックを長年販売してきたのはキリンビバレッジだった。しかし同社は2020年7月、フランスのソシエテ・デ・ゾー・ド・ボルヴィック社との製造委託契約が期間満了となり、更新しない方針を発表。同年12月末をもって出荷を終了した(日本経済新聞 2020年7月)。
以降はアイリスオーヤマ傘下のアイリスフーズが並行輸入品を扱う形で、日本市場での流通が続いている。正規流通とは異なり、全国の主要小売店への安定的な定番配荷には至っていないが、オンラインショッピングや一部の輸入食品専門店では引き続き購入が可能な状況だ。
「水源の持続可能性」を消費者が考える時代
ボルヴィックの事例が示すのは、ミネラルウォーターの「産地ブランド」が未来永劫に維持されるとは限らないという現実だ。背景には次の構造的な課題がある。
採水量と自然補充量のバランス 帯水層から水を引き出す速度が、自然の雨水浸透速度を長期にわたって上回れば、地下水位は低下する。ボルヴィックのように数十年かけて圧力がかかった場合、回復にも同等以上の時間を要するとされる。
気候変動による降水・浸透量の変化 欧州では温暖化に伴い夏季の乾燥期間が延長しており、ヴォルヴィック地域でも降水パターンの変化が帯水層の回復速度に影響していると指摘されている。
地表生態系への影響 地下水位の低下は、地表の湿地や小川の流量にも波及する。魚類・両生類・湿地植生など地域の生物多様性への影響が懸念されており、前述の養魚場の事例はその具体例だ。
日本国内では、東日本の深層地下水の動向や阿蘇カルデラ周辺の地下水位変動なども注目されており、国産天然水にとっても「採水可能量の持続性」は将来的な課題となりつつある。
ボルヴィックを選ぶ際には、その地質科学的な魅力とともに、水源環境をめぐる現状も把握したうえで選択の参考にしてほしい。MIZUNOMOの水データベースでは、ボルヴィックを含む70種以上のペットボトル水の硬度・pH・ミネラル成分を比較できる。
参考情報
監修・運営: 水野亮人(みずの りょうと)
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